紆余曲折

いろいろあった。

When You Wish Upon a Star

 とある理由で七夕の日には思い入れがあり、ぼくにとっては大事な日である。星に願いを。

 

 洋画が日本で上映されるにあたり、広告代理店の手によって英題が邦題に変えられて公開される。逆もまた然りで、邦画も邦題を英題に変えて海外で公開されている。適訳・意訳・珍訳様々あり、なかなかに面白い。映画に限らず、英語というものがそもそも普及していなかった昭和の時代には小説や音楽も色んな翻訳がなされ、消費者の手に渡っていた。

 特にディズニー映画は子供向けのコンテンツということもあり、英題とは関係なしに登場人物を邦題にしがちである。『アナと雪の女王』の英題は『Frozen』、『ベイマックス』の英題は『Big Hero 6』である。『カールじいさんの空飛ぶ家』にいたっては英題は『Up』であり、原型を留めていない。一部の人からは「やりたい邦題」と揶揄される始末である。

 『ベイマックス』に関してはCMもあらすじとは全く違う仕上がりになっており、ぼくはCMを見たとき「少年とロボットの心温まる感動物語」だと思っていた。実際には『Big Hero 6』の名の通り、6人の発明家たちが発明品を駆使して巨悪に立ち向かうというものである。CMはもっと違うものにしてほしかった。

 

 邦題から英題に翻訳されたときには、文化の違いを感じる。『おくりびと』の英題は『Departures』で、この単語は「出発」を意味する。邦題は「送る」で「さようなら」、英題は出発で「いってらっしゃい」という「他人の死」への価値観の違いが表れていて面白い。

 その他、英題は短くまとめられる傾向がある。ジブリ作品の『平成狸合戦ぽんぽこ』は『Pom Poko』、『借りぐらしのアリエッティ』は『Arrietty』である。逆に長くなるものはほとんど無いのではなかろうか。

 スタジオジブリの作品の英題で気に入っているものは『Spirited Away』と『Whisper Of The Heart』である。前者は『千と千尋の神隠し』の英題で、「spirit away」という「神隠し」を意味する単語に由来する。後者は『耳をすませば』の英題で、「心の囁きに耳をすませば」という邦題と英題で繋がるフレーズになっているところがおしゃれである。

 

 Queenの楽曲『Somebody to Love』の邦題『愛にすべてを』や、『Sister Act』の邦題『天使にラブソングを』など気に入っている翻訳・意訳はいくつかある。中でも一番好きなものが『The Catcher In The Rye』の邦題『ライ麦畑でつかまえて』である。

 直訳すると「ライ麦畑のキャッチャー(捕まえる人)」で、これは主人公の「ぼくは崖の上のライ麦畑で遊ぶ子供たちが、畑から飛び出して崖から落ちないように捕まえてあげたい。そういう人になりたい。」というセリフ(うろ覚え)に由来する。ちなみに作品をざっくり説明すると、学校を停学になった不良少年の主人公が街をふらふらして生きる意味を見つけるという物語である。正確なセリフは実際に読んで確かめてみてくれ。

 『ライ麦畑でつかまえて』という意訳には諸説あり、ぼくが気に入っているのが「主人公がつかまえてほしかった」説である。

 上記の通り、主人公は不良少年で所謂「道を踏み外した人」である。そこで最終的に「ライ麦畑のキャッチャー(=道を踏み外しそうな子供を助ける人)」になりたいという夢にたどり着くのだが、主人公は「道を踏み外したくなかった」つまり「ライ麦畑でつかまえてほしかった」という説である。物語を10文字で綺麗に表していて凄く感動した。

 ちなみに最も有力な説は「単純に誤訳」説である。訳がなされた当時は、この小説に限らず無茶苦茶な邦題の小説が溢れかえっていたらしい。なお、有名作家の村上春樹は『キャッチャー・イン・ザ・ライ』と訳している。

 

 1年前に見た『レディプレイヤー1』という映画がある。これも「やりたい邦題」だと思っていたが、なんと英題も同じであった。最近気づいたのだが、スーパーファミコンの2人用ゲームを始めると、「player 1」「player 2」と画面に表示される。そして題名の意味を悟った。先入観というものは恐ろしい。