紆余曲折

いろいろあった。

サンタクロース症候群

 「この世の中にはサンタクロースを信じている人が多くて困るよ」

 パワプロくんポケットというゲームシリーズの登場人物のセリフである。努力をしていないのに「幸せになりたい」などと言う人たちのことを皮肉っている言葉で、凄く心に残っている言葉の一つだ。思春期にパワプロくんポケットにハマっていたので、割とこのシリーズには思い入れがあり、思想にも影響している。

 20歳になるくらいまで進学校の連中としか密な交流が無かったので、いわゆる「努力をしない上に不平不満を垂れる」タイプの人間と出会ったことが無かった。周りは必死に努力していたし、努力していない人間は「これが当然」と言わんばかりに自分の境遇を受け入れていた。自分の力量を把握していると考えると、高校・大学の同級生たちは頭が良かったのだろう。

 塾講師を初めてようやく「サンタクロースを信じている人」たちに会うことになる。「どうして勉強しているのに成績が良くならないの」「家が金持ちの人は環境がいいから勝てるわけないじゃん」「才能がある人はずるい」。いろいろな生徒が多くいた。軽いカルチャーショックだった。

 彼らは性別・年齢・貧富など各属性は違っていたが一つだけ共通点がある。それは「世界で一番私が努力をしている」という理念である。受験生なんて特にそうで、自分史上最大の努力をしているつもりだろうが、はっきり言ってお話にならないレベルの勉強量の生徒もたくさんいる。それなのに口から出てくる言葉が「私は頑張っているのに」である。

 

 結婚してから交流が始まった義実家の人間たちも同じであった。他人の苦労を汲み取ろうともせず、いかに「自分が苦労してきた」かを語る。「俺は苦労して生きてきたんだ」と言われても、それは努力が足りなかったからでは無いのかと思わざるを得なかった。親に精神的依存をしている嫁も「私は何もしていないのにどんどん不幸になっていく」と言っていたが、逆である。「何もしていないのに不幸になる」のではない、「何もしていないから不幸になる」のである。あの一家の破綻した論理を聞くと、世界の広さを感じる。「公務員は休職中にも給料がたくさん貰えてずるい」という義母の話を聞いたときは失笑を禁じ得なかった。

 

 日本の教育現場ではアクティブラーニングという概念が流入している。いわゆる「能動的に学ぶ」という意思を育む教育である。ぼくは「自発的な努力を促す」教育だと捉えているが、この教育の行く末はどうなるだろうか。ルサンチマンが減るといいなぁ。

 少なくとも壁に当たったとき「自分の努力が足りない」という思想が、子供たちの中に芽生えると少しは世の中も変わる気がする。というのも、ここ1年間でどうにもならない人たちと交流して酷く疲れたし、今日も彼らの思想に触れてイライラした。彼らの辞書には「自責」という言葉は無く、「他責」しか無い。なぜなら「自分は世界で一番努力している」から。

 

 個人的に努力も頭も足りない人たちの思想を「サンタクロース症候群」と呼んでいる。彼らが夢から目覚めることは無い。