紆余曲折

いろいろあった。

塾講

 2週間ほど前、3年半続けた塾講師のアルバイトを辞めた。4月からの就職が主な理由である。

ぼくの勤めていた塾は主に中学生向けの個人塾で、先生対生徒が1対2、または1対3で授業を行っていた。地元地域に7つほどの教室を持つ小さな塾であった。

塾講師を始めた理由は時間あたりで見ると高給なのと、座って仕事ができるという2点である。履歴書には「子供が好きだから」という言葉を並べた。

採用にあたっては本来面接をきっちりやるようだが、ぼくの場合は電話越しに大学名を伝えただけで採用となった。学歴って大事だ。

 

 うちの塾の授業は90分もある。中学生にはとても長く感じるだろう。

実際、明らかに頭の良い子以外は集中力が持たず、多くの生徒が1時間ほど経った時点で集中力が切れていた。受験生なのに寝てる生徒もいた。

「勉強体力」というものの存在を確かに感じたし、受験における最も重要なファクターであるように思う。

授業自体はマニュアル化されているため、最初の年度は覚えるのが少々大変だったが次の年からは機械的に授業できるようになった。問題も同じ問題を毎年解かせるので予習の必要はなく、比較的楽なバイトだった。

高校生を担当する際は少し疲れる。マニュアルが無いのだ。生徒が持ってきた問題集を使うことが多く、生徒が問題を解いている最中に講師も問題を解き、解説するという講師の実力任せの授業形式である。

そのため、高校生を担当できる講師が少なかった勤務初期~中期はよく高校生を担当していた。中学生を担当するときと給料が同じだったので、高校生を教えるのは単純にコスパが悪い。

 

 中学3年生の多くは部活を終える7月に入塾する。半年以上の長い付き合いになる生徒が多いので、毎年懐いてくる生徒は男女問わずいる。LINEを交換した生徒もいる。

大学生くらいの少し年上の人間は話しやすいのか、恋愛・人間関係・進路などいろいろな相談を受けてきた。彼らの悩みというものは実に多種多様である。

主に恋愛に関する相談が多かったように思える。まだ交際したこと無い生徒から「初デートはどのような感じだったか」などと聞かれたときもあった。「緊張して覚えていない」という人間らしい回答をした気がする。

ちなみに当塾の生徒のデートは専らイオンが多いようで、田舎臭さを感じる。

仲良くなった生徒は、バレンタインのチョコや家族旅行のお土産なんかをくれる。もちろん貰えない講師もいる。子供は残酷である。

 

 講師は陰キャが多い。当然である。陽キャは居酒屋のバイトをやってる。

それでも勤務後期は陽キャが3人ほどいて、ぼくを含めた4人で飲み会に行くこともあった。天パの生徒に「ちんげパーマ」というあだ名をつけている、というエピソードトークに笑ってくれる愉快な人たちだった。

うちの塾には「クビ」というものは無い。あるのはシフトが日に日に無くなっていく穴あき現象だけである。

個人塾なので生徒からの印象は大事である。生徒は講師が気に食わなければ次回からその講師の担当を外すことができ、不人気講師は多数の生徒からNGを食らうこととなる。

その結果どうなるか。担当する生徒がいないものだから、その講師のシフトは必然的に穴が開いてくる。シフトに入れても担当させてくれる生徒がいないのだ。

NG理由が「話し方」や「臭い」のときもある。酷いときは「顔」というものもあった。やはり子供は残酷である。

ちなみに逆のパターンもあり、生徒が講師を指定してくることもある。こうなったら面倒で、シフトに穴を開けられなくなる。卒論のシーズンにこれをやられて該当生徒憎しになったこともあった。

 

 3年以上も続けた塾のバイトであったが、それなりに得るものはあった。世の中にはいろんな人間がいるという知見である。

今までは大学に行くような人間としか交流がなかった。そういう環境にいたので当然のことであるが、大学に行かない選択肢をとる人間の思考や論理とは無縁だった。この塾で世の中の人の幅を垣間見た気がする。

「継続は力なり」というが、確かに長く居続けて見えるものもある。「継続は美」という風潮は嫌いだけれど力にはなるんじゃないかな。